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広島高等裁判所 昭和28年(ラ)32号 決定 1953年12月21日

抗告人 株式会社成宮商店 代表者取締役 成宮惣五郎

訴訟代理人 高橋一次

主文

原決定を取消す。

事実

申立代理人は主文同旨の裁判を求めた。その理由の要旨は次の通りである。

(一)本件強制競売申立の基本となつた公正証書の執行力ある正本は、その執行力の現存が公証されているのであるから執行裁判所はその債務名義としての効力の有無を調査する必要もなく、またその権限も有しない。従つて右公正証書が公証人法第三十六条第三号所定の要件に違背する無効のものであるとして、本件強制執行の申立を却下した原決定は失当である。

(二)仮にそうでないとしても、前記公正証書の末尾には当事者の氏名並びに、各当事者の代理人の氏名、住所、職業及び年令が記載されているのであるから、右各代理人の嘱託により、作成せられたものであることは明白である。従つて、右公正証書は公証人法第三十六条第三号所定の要件を充足しているから、原決定は失当である。

理由

本件記録に添付せられた広島法務局所属公証人津村幹三作成新第一万四千六百八十号債務確認並びに支払に関する契約公正証書の執行力ある正本によれば、右公正証書の冒頭には「本職は当事者の陳述を聴き左に之を録取する」と記載され、他に代理人の嘱託により作成せられた旨の文言は何等存しないのであるが、その末尾には、当事者双方の各代理人の氏名、住所、職業及び年令が記載せられ、且つ右代理人等が公証人役場に出頭して公証人と共に署名捺印していることが認められるのであるから、右公正証書の全文を通読するときは、その冒頭に「当事者の陳述」とあるのは「当事者の各代理人の陳述」を指称するものであることをうかがえるし、また、右公正証書が右各代理人の嘱託により作成せられたことは、たとえ「代理人により嘱託せられたる旨」の文言の記載がなくても、十分に明らかとなつている。従つてかかる場合右の如き文言の記載がなく右公正証書が公証人法第三十六条第三号所定の要件を具備しないといつても直ちにこれを無効のものであるということはできない。

よつて、右公正証書の執行力ある正本が公証人法第三十六条第三号所定の要件に違背し、債務名義としての効力を有しないことを理由として本件強制競売申立を却下した原決定は不当であつて、本件抗告は理由があるから、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十六条を適用して主文の通り決定する。

(裁判長判事 植山日二 判事 佐伯欽治 判事 松本冬樹)

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